小学生に弄されたい?: 「弄する」を調べる
百合を許さない方もお呼びしました
定評ある無駄遣い力を発揮してもう1冊『三省堂 例解小学国語辞典 第五版』を買ってしまいました。Amazonアウトレットで安かったんだもん。
売りは「抜群の軽さ」だそうですが、手元の『チャレンジ小学国語辞典 第五版』と持ち比べてみて正直わかりません。それでも軽さには相当こだわりがあるのでしょう。
- B6判: 例解小学国語辞典 (通常版) = チャレンジ小学国語辞典 コンパクト版
- A5判: 例解小学国語辞典 ワイド版 = チャレンジ小学国語辞典 (通常版)
三省堂は小さい方を通常版として据えています。ランドセルを少しでも軽くしたいのでしょうが、そもそも辞書を持ち歩く必要はあるのでしょうか。旧版の古本を2冊買って、学校と家に置けば……などと言うと出版社のみなさんに怒られてしまいそうですが。2冊セットで安くすればいいのにね。
さて、前回は『チャレンジ小学国語辞典』に決めた理由を書きました。せっかくなので選ばない理由となった語釈を見てみましょう。
こい【恋】
[名] [動-する] 異性を特別に好きになる気持ち。恋愛。 [例] 恋をする。 ⇒ れん【恋】
れんあい 【恋愛】
[名] [動-する] 男女が、たがいに相手をこいしく思うこと。恋。
(三省堂 例解小学国語辞典 第五版)
ね、今時男女に縛られています。「人を特別に好きになる気持ち」や「たがいに相手をこいしく思うこと」の方が文字数も節約できるのに。「それって友達とどう違うの?」って言われちゃうのかも知れませんが、いいんじゃないのかな。17歳の私にだってわからないよ!
単純に古い語釈を引き継いでいる可能性もありますが、この手の言葉は調べられがちと察しているはず。第六版では古典的な性別から解放されることを祈ります。
「弄する」を調べる
今日は先日どこかで見かけた表現、「弄(ろう)する」を調べます。
見かけたときに「何となくわかるものの、誰かに説明できるほどハッキリしないから」と国語辞典を引きました。私が辞書を引く理由の多くはこれです。意味は漢字表記の通り「もてあそぶ」。うーん、どうもしっくりこないので、本気であれこれ考えるついでにネタにしちゃいます。
「(ろう)」とふりがなを振るほどなので難しい言葉に違いありません。小学生向け国語辞典に持ち替えたらおもしろいかなとも思いました。なお、「弄(ろう)する」は何らかの用字用語集に従った表記なのでしょう。共同通信社『記者ハンドブック辞書 第12版』でもそのように指示されています。
では、引きましょう。
ろうする【弄する】
[名詞] 自分の思うままにあつかう。 (例) 策を弄する(= あれこれとはかりごとをめぐらす)。
(チャレンジ小学国語辞典 第五版)
ろう【弄】
[画数] 7画 [部首] 廾(にじゅうあし)
[音] ロウ [訓] もてあそ-ぶ
- 手でいじって遊ぶ。 [例] おもちゃを弄ぶ。
- 思うままにあつかう。
[熟語] 愚弄 〔= ばかにして、からかうこと〕。翻弄。
(三省堂 例解小学国語辞典 第五版)
『三省堂 例解小学国語辞典』では見出し語にありませんでしたので、漢字見出しを引用しました。やはり新聞等でふりがなを振るぐらいの言葉になってくると小学生向け国語辞典では厳しいようです。
このblogは国語辞典を比べようって企画ではありませんから、それぞれの違いには構いませんが。小学生向け国語辞典を窓に日本語を深く考えることは大切な目的の一つです。「弄する」の語釈を弄びましょう。いや、この使い方は違うでしょう。さ、遊びましょ。
「弄ぶ」で例文を作れと言われれば誰もがこの手の文章を返します。
ナタリアは金髪のしっぽを揺らしながら、 彼女の男の部分を弄んだ。
ナタリアは私の好みから言うと中学――余計なことを言うのはやめましょう。「弄ぶ」をその語釈で置き換えてみます。
ナタリアは金髪のしっぽを揺らしながら、彼女の男の部分を思うままに扱った。
「思うままにした」としたいところですが我慢。さあ「思うままに扱う」を語釈として持つ単語は、そうです。
ナタリアは金髪のしっぽを揺らしながら、彼女の男の部分を弄した。
この表現はいただけません。自信を持って申します、いただけません。しかし多くの国語辞典の語釈はこの表現を支持しています。「思うままに扱う」など挟むことなく、「弄した」の語釈に「弄ぶ」があります。小学生向けの国語辞典はおろか、ざっと調べた次の一般向け国語辞典が同様の語釈を載せています。
- 岩波国語辞典 第六版
- 広辞苑 第五版
- 広辞苑 第六版
- 三省堂国語辞典 第七版
- 大辞林 スーパー大辞林3.0
- 集英社国語辞典 第3版
- 現代国語例解辞典 第四版
- 大辞泉 第二版
- 国語大辞典 新装版
- 明鏡国語辞典 初版
- 明鏡国語辞典 第二版
『明鏡国語辞典』なら勝てると思ったのですが、残念ながら敗退。
私の感覚から言えば「弄する」対象は物理的なものではありません。絶対的な優位にある「弄ぶ」に比べ、「弄する」には試行錯誤している感がありそうです。そして「弄する」と「弄ぶ」には置き換えに耐えられるほどの互換性はない。この感覚は国語辞典の支持を得られるのでしょうか。
『明鏡国語辞典』の後ろに控えるのは『小学館日本語新辞典』でしょう。
ろう-する【弄する】
[他サ変] ロ ース ル | 〔コトヲ〕手に持って遊ぶ。転じて、自由勝手に操る。もてあそぶ。 (例) 策を弄する/いたずらに技巧を弄する。
(小学館日本語新辞典 初版)
「弄する」対象について感覚と合致しました。しかし互換性の点において「弄する⊂弄ぶ」となっている点が不完全と言えます。なお、同様に対象について区別している国語辞典はいくつかあります。
ここまで来ても己の感覚を疑わない強気さで突き進むと、何とあるじゃありませんか。
ろう-・する【弄する】
《他サ変》 いろいろな手段を巧みに用いる。「甘言を―・して誘惑する」「策を―・する」
もて-あそ・ぶ 【弄ぶ・玩ぶ】
《他五》
- 手に取って遊ぶ「扇を―・ぶ」 [類語](する) 玩弄
- 慰みとして愛好する。「盆栽を―・ぶ」
- 人を慰み物にする。おもちゃにする。なぶる。「女を―・ぶ」
- 〔楽しむかのように〕思いのままにあつかう。「議論を―・ぶ」「運命に―・ばれる」 [類語](する) 翻弄。
(学研 現代新国語辞典 改訂第五版)
これだ。
しかし『学研 現代新国語辞典』においても「弄する」と「弄ぶ」の間に「優位さの違い」は見られません。各国語辞典の例文を読んだ結果、私の感覚が誤っているのではないかと思うに至りました。おそらくは「労する」と混ざっていたのでしょう。
例文の話になりましたので、ここで一つ明かしましょう。全ての国語辞典において「弄する」の例文は私の感覚とぴったり合致していました。それがなぜ語釈に反映されなかったのかは不明です。何となく、使い方が変わってきた言葉ではないかと思われます。
まとめ
- 「弄する」は小学生向け国語辞典に載るか載らないかの難しい言葉
- 「弄する」と「弄ぶ」との間には置き換えができるほどの互換性がない(のは間違いなさそう)
意外と長くなってしまいました。「こんな難しい言葉は載ってないよね」にならなかったことからして誤算です。小学生向け国語辞典にさっぱり載らない言葉ってのはどんなのだろう。
今回使った国語辞典

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