幼い小学生は賢い: 「砕く」を調べる
お引っ越し
blogじゃなくて、中の人が。この4月から弘前で看護学生をやっています。弘前、つまり津軽。日本語を扱うものとしてもおもしろい土地であることに気付いたのは、弘前行きが決まっただいぶ後でした。
津軽弁という日本語
弘前市は青森県にあり、青森県は日本国にあります。公用語はもちろん日本語で、日常使われる言葉も日本語です。しかしその日本語が私の使う日本語じゃない何か、津軽弁です。
津軽弁はちょっとした会話でも津軽弁特有の単語が使われます。まず聴くことになるのは「わ」や「わい」*1。「私」という意味です。それなりの年齢の女の子ともなれば可愛くないと思うこともあるようで、一人称を自分の名前とする人が結構多いようです。見た目が幼い子が多い地方なので、一部の需要に直撃ですね。
一方、標準語でもおなじみの単語で、意味も標準語から見てわからなくはないんだけど微妙に使われ方が違う単語も存在します。
「砕く」を調べる
両替すること、主に紙幣を硬貨に替えることを標準語では「崩す」「細かくする」などと言います。これが津軽弁では「砕く」と言うようなのです。最初に聞いたときは話者の癖かなと思ったのですが、別の人からも聞こえてきて方言だと気付きました。
ではその「砕く」を小学生向け国語辞典で調べてみましょう。小学生向けどころか一般向けにも件の語釈はないとわかっていて調べるんですけどね。(日国にはあるんじゃないかと思いますが、今、手元になくて...)
くだく【砕く】
[動詞]
- 固まっているものを、こわして細かくする。 (例) 岩を砕く。
- いろいろ考え、心配する。 (例) 楽しい旅行になるよう、心を砕く。
- 難しいことを、わかりやすくする。 (例) 意味を砕いて説明する。
(チャレンジ小学国語辞典 第五版)
2番目の例がいまいちなのはさておき、やはりありません。
1番目の語釈の延長なのですが、「崩す」にはそれそのものがあります。よって載っていないと言ってよいでしょう。
くずす【崩す】
[動詞]
- 形のあるものをこわす。 (例) 山を崩して平地をつくる。
- 整っていたものを乱す。 (例) 列をくずす/体調をくずす。
- 細かいお金にかえる。 (例) 千円札を百円玉にくずしてもらう。
(チャレンジ小学国語辞典 第五版)
2, 3番目の例がなぜ「くずす」なのかはさておき、この通り、両替が直接的に示されています。
津軽の小学生はどうやって辞書を引いているのか
今日の要点はここ。「辞書引き学習」なるものが隆盛を極めているらしい今、津軽を初めとした強い方言を持っている地域の小学生たちはどうやって国語辞典を引いているのでしょうか。
考えてもわかりっこないので聞いてみたところ、小学生の時点で標準語と方言を区別しているそうです。そもそも教科書に載っているのは標準語だからとも。方言については話すうちに覚えたり、親から教わったりするけど、国語辞典で調べることにはならないみたいです。
津軽の小学生は一桁の年齢にして1.5種類(?)の言語を扱う多言語話者なのかも知れませんね。
まとめ
- 方言は小学生向け国語辞典には(一般向け国語辞典にも)載っていない
- 津軽の小学生は国語辞典を引く際に標準語か方言かを意識している
標準語による国語辞典や学校教育程度で方言が消えないことは、これからの教育を考える上で重要なヒントかも知れません。
ちなみに
津軽弁と一緒くたに扱われますが、弘前と青森(市)、五所川原ではそれぞれ異なるそうです。五所川原が一番きついとのことで、きつい地域の人が他を聞くと「訛ってない」と感じるとか。
今回使った国語辞典
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*1:調べてみると「わい」は下北弁なのかも