小学生に狙って欲しい的: 「的を得る」を調べる
日本語界の一大事に小学生で切り込む
看護学生blogにかまけてすっかりお留守になっていた小学生といっしょ。改版によってどう変わるかなという前回の続き要素も含ませつつ、ついにこのネタを出したいと思います。
『三省堂国語辞典』第7版では、従来「誤用」とされていることばを再検証した。「◆的を得る」は「的を射る」の誤り、と従来書いていたけれど、撤回し、おわび申し上げます。「当を得る・要領を得る・時宜を得る」と同様、「得る」は「うまく捉える」の意だと結論しました。詳細は「得る」の項を。
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) December 15, 2013
あの三国が「的を得る」の誤用が誤りであったと公表したことは、私にとっても衝撃的なことでした。三国は数ある国語辞典の中でも信頼しているもので、どれか1冊選べと言われたら迷わず三国を選ぶであろうほどです。
尤も、衝撃の大ニュースのあとで知ったことですが、「的を得る」誤用説はそもそも三国が言い出した疑いがあるそうですね。
この記事を読むまでは「的を得る」誤用説を採る国語辞典は多くないということを存じませんでした。お恥ずかしい。ちなみにこれを書くのに使っているATOK 2015は誤用説を採っていて*1、「的を得る」と入力するたびに警告してきます。
しかし実は、小学生向け国語辞典では少々事情が違います。誤用説の方が主流なんですよね。ざっと見た中で「的を射る」の語釈がある辞書に限れば、3/4 = 75%が誤用説を採っています。
国語辞典 | 「的を射る」語釈あり | 「的を得る」は誤用 |
---|---|---|
三省堂 例解小学国語辞典 第六版 | ✓ | |
ベネッセ チャレンジ小学国語辞典 第六版 | ✓ | ✓ |
小学館 例解学習国語辞典 第十版 | ✓ | ✓ |
学研出版 新レインボー小学国語辞典 改訂第4版 | ✓ | ✓ |
旺文社 小学国語新辞典 第四版 | ||
くもん出版 くもんの学習 小学国語辞典 |
さて、誤用説を採っていない貴重な三省堂と、誤用説を採っている主流派のベネッセで、語釈を比べてみましょう。
「的を射る」を調べる
まと【的】
[名]
(中略)
的を射る
- 矢がねらった的に当たる。
- きちんと当てはまる。 [例] 的を射た意見。
(三省堂 例解小学国語辞典 第六版, 第五版)
まと【的】
[名詞]
(中略)
的を射る
要点を正確にとらえる。 (例) 的を射た意見。 [使い方] 「的を得る」といわないよう注意。
(チャレンジ小学国語辞典 第六版, 第五版)
いずれも第五版から第六版での変更はありません。実はここの変化に期待して記事を書き出したのですが。
並べてみるとなかなか趣深いですね。小学生に何を教えるべきなのか。語れば果ては教育学の領域に入ることになるでしょう。ここではそこまで踏み込まないようしないとね。
三省堂は「その言葉が何を意味するか伝えるため」の語釈。「的を得る」が誤用であると理解するにも、「的を射る」の本来の意味を知らなくてはなりません。誤用を訴えるベネッセが説明しないその根本をしっかり押さえているあたり、小学生向けでただ一人、真実を追い求めた鉄人の風格が漂いますね。
一方でベネッセは「その言葉の使われている文章を理解するため」の語釈です。国語辞典の何たるかを考えたとき、余計なお世話と言えましょう。しかし小学生向け、実戦の場で楽しく学んでもらうための一つの工夫であるとも捉えられます。小学生が学ぶ国語は、そこにある文章を理解するためのものなのですから。
ベネッセがなぜ誤用説を採ったのかは気になるところでもあります。そのうち問い合わせてみますが、答えは来るものかねぇ。
「誤用」は載っていない
これだけではおもしろくないなと、それぞれが「誤用」をどう説明するのか見ようと思ったのですが、いずれの国語辞典にも「誤用」は立項されていませんでした。もちろん「誤り」はありますけど、ネタになるような内容でもなく。
もちろん載っていないと明確にしておくことも重要です。小学生にとって、誤用は重視すべきことじゃないとされていることがわかるのですから。
まとめ
- 小学生向け国語辞典においては「的を得る」誤用説が主流
- 「誤用」が載らないのならば、誤用を載せる必要はない気もする
今回使った国語辞典
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*1:機能が積まれたのがATOK16から? そのときから誤用説の採用は変わってないよーな。もはや調べようとは思わないけど...。